真紅の世界
この国に来てから、魔法の練習はしていない。
ユリウスが言うには、魔法は練習をしなくてもできる人はできるし、出来ない人はできないそうだ。
つまり、ブライス国でレティと一緒にあれだけ練習したのにできなかったということは、私には防御の魔法しかできないんだ、とユリウスは笑顔で言い切ってくれた。
そのことに、どこかほっとした。
正直、魔法の練習はしたくないと思っていたから。
別に魔法が使えなくても不便はないし、人を傷つける魔法なんて使いたくない。
わたしは誰かを……――ユリウスを守れる力があればそれでいいと思ったから。だからもう、自分の魔法については考えないようにした。
「……となりますが、何か質問はありますか?」
眼鏡をかけて髪をひっつめている、齢80を越えているとは思えないほど、スッと背筋を伸ばしてこちらをじっと見つめてくるセレナ先生。
とても厳しく見えるけれど、物腰が柔らかくて、とても親切に分かり易い授業をしてくれる優しい先生だ。
少しだけ、ウメさんに似ている。
「あの」
セレナ先生には、もう数えきれないほどの授業をして貰ってきた。でも、何度も聞こうと思って、何度も断念してきたことがある。
それは、ユリウスに聞いても分からなかったことだからだ。
私の言いかけた言葉に、「どうしたんですか?」と首を傾げて続きを促す先生。意を決した私は、ぐっと拳を握って思い切って聞いてみた。
「自分の中から闇が生まれることはありますか?」