真紅の世界
私の言葉に、セレナ先生は眉をしかめた。
私の質問が抽象的すぎて、意味がわからないからそうしたのか。その質問がタブーだったからそうしたのかは、判断できなかったけれど。でも勢いのまま言葉を続ける。
「自分の後ろ向きな思いとか自分を卑下する思いから、心の中に一つの点が生まれるんです。その点が大きな闇になって……。それは心の中の闇のはずなのに、いつの間にかその暗闇の中に自分がいるんです」
セレナ先生は何を言うでもなく口を引き結んで、ただじっと私の言葉を聞いていた。
そのセレナ先生の態度に不安になって、そこでやめようと思ってしまう。それでも、ここでやめたらもう二度と聞けないと、私は最後まで言い切った。
「ユリウスは、その場にいたんですけど“分からない”と言っていました。 それが真実なのか、嘘なのかはわかりません。 でも私は、あの時自分の中で生まれた“黒”が怖くて仕方ないんです。 先生は、ご存知ですか?」
そこまで言い切って初めて、セレナ先生は口を小さく開いて息をか細くはきだした。
目を伏せて一度深呼吸した次に、何かを決意したかのような目でまっすぐに私を見つめてくる。そして、教科書を読むかのように淡々と言葉を並べた。
「そのような現象は、私の知る限りでは該当する答えを持っていません。 きっとユリウス様も、本当に知らないのでしょう」
思わず落胆してしまう。
あの“黒”の正体を知れたら、何かしらの対策を取れるかもしれないと思っていたから。
そうすればユリウスの手を煩わせることもなくなる。自分一人でそれを奥底に閉じ込めておくことも可能かもしれないと、微かな希望を持っていたのだ。でも、やっぱりそう簡単にはいかないらしい。
がくっと肩を落とした私に、セレナ先生は一つの可能性を提示してくれた。
「サラは知っていますか?」
まるで“知っているでしょう?”とでも言っているような声音で前置きした後、
「代々このユリエル国には、王家に仕える妖精がいるとされています」
「……妖精、ですか?」
「そうです」と一つ頷いて、セレナ先生は宙に指を滑らせる。
すると、黒板に書いているように光る文字が空中に浮かびあがった。