真紅の世界
不思議なことに、ユリウスの部屋は私の部屋と廊下を挟んで向かいにある。
この世界の人にとっては、私はどこから来たのかもわからない怪しさ満載なやつなのに。何故か一番近い部屋に案内されたのだ。
もしかしたら、なにか不穏な動きをしてもすぐにわかるように、という思惑があるのかもしれないけれど。でも、私としては、ユリウスの部屋が近くにあると言うだけで安心できる。
またあの時の様に、“黒”に呑みこまれそうになったとしても、ユリウスなら気づいてくれるかもしれないから。きっとそれは甘い考えなんだろうけれど。気分的にはだいぶ違うのだ。
そして当たり前だけれど、ユリウスの部屋のドアの両脇には護衛の騎士が立っている。ユリウスの部屋を常時守っているのだ。でもいつも同じ人じゃない。見るたびに甲冑の装飾が違うのだ。それに甲冑からかすかに見える髪や瞳の色も違う。決められたメンバー内で、交代しているのだろう。
今日は剣の稽古をするときに、いつも指南役を務めてくれている顔見知りの騎士がユリウスの部屋の前にいた。だからその人に目を向けて「こんばんは」とあいさつをしたら、甲冑の隙間から見えるわずかな目が微かに細められて小さく頷いてくれた。
なんでも、甲冑を着ている騎士は、主の許しがない限り私語は厳禁らしい。
もちろん稽古をつけてくれているときは甲冑を着ていないので、実はその甲冑の下には甘いマスクが隠れていることは知っているんだけれど。
でもその顔にもあまりときめかないのは、間近にユリウスという完璧すぎるくらいの美形がいるからなんだと思う。
この世界の人は、美男美女ばかりだ。もし地球に戻れる時が来ても、誰かと付き合うことなんてできないんじゃないかと、無用の心配までしてしまう。美的感覚がおかしくなるくらいに、顔立ちの整った人ばかりなのだ。
そんなやりとりをしている間に、もう一人の騎士がドアをノックしてくれた。
それでも“誰が来た”という報告をすることはない。
中からユリウスが“入れ”と言うまでは入ってはいけないし、入っても“誰が来た?”と問われない限りは口を開くことが許されない。
そこまで厳しい決まりがあるにもかかわらず、甲冑を脱いだ彼らとユリウスはまるで兄弟かと思うくらいに仲がいいのを知っている。
部屋の中からユリウスの通る声が「入れ」と聞こえてきて、ユリウスの声が途切れると同時に先に騎士が中に入る。ユリウスとやり取りをして私が来たことを告げて、やっと入ることが許された私は初めてユリウスの部屋へと足を踏み入れた。