真紅の世界
そう、実はユリウスの私室に入るのは、これが初めてだったりする。
王室に仕える妖精の話を聞きたかったから、なるべく誰にも聞かれる心配のないユリウスの部屋の方がいいだろうと思ったのも確かだけれど。ユリウスの部屋を見てみたかったという気持ちがあったのも否めない。
そしてユリウスの部屋に入った感想は、意外にもあまり広くなかったことが何よりも印象的だった。
一国の王様なのだからもっと豪勢な部屋を想像していた。いくつもの部屋があったり、小さい子供が走り回れるんじゃないかってくらいに広いスペースに、何人寝ることが出来るんだってくらいに大きい天蓋つきベッドがドドンと真ん中にあるのを想像していた私は、拍子抜けしてしまった。
多分、私が今使わせてもらっている部屋より少し大きいくらいの広さしかない。
私の部屋には大きな窓があったけれど、この部屋は窓がない。
私の部屋の様に食事するところにつながるようなドアも見当たらないし、この部屋に入るには今私が入ってきたドアからしか入ることが出来ない造りになっているみたいだ。
ユリウスが腰かけているベッドは、確かに大きいけれど天蓋つきじゃない。家具も仕事をするような小ぶりのデスクと、お茶を飲むための円卓と椅子が2脚あるくらい。モノクロで統一されているせいか、殺風景という表現が一番しっくりくる。
ベッドの横に音もなく立っていたシークは、私がキョロキョロしているのを「何か面白いものでもありましたか?」とからかうような口調で諌めて、円卓の傍にある椅子に座るように促した。
素直にそれに従って座ると、どこから出してきたのかシークの手の中にはティーポットがあった。もう片方の手には空のカップを持っている。
魔法が当たり前にある世界だから、これはここでは当たり前のことなんだと頭では分かっている。けれど、私にとってはまるで手品で、見るたびに驚いてしまうのだ。
「まだ魔法でものを出すのには慣れませんか?」
ティーポットからお茶をカップに注いで、優雅な動作で私の前に置いてくれるシークにこくりと頷く。
「ブライス国では、そんな風に魔法を使っている人たちなんていなかったんだもん」
毎回大げさなくらい驚く私を、毎回からかってくるシークに言い訳のように言った言葉に、シークもユリウスも驚いていた。
「あの国ではこういう用途では魔法は使っていないのか?」
ベッドに座ったままそう口を開いたユリウスに、コクリと頷いて向こうで教わった“魔法”についてそのまま伝えることにした。