真紅の世界
「あっちの世界で一番魔法を使える人が多い国がゴベル国って言ってね。魔法もその国が先進国みたいで、平和条約を結んでいるブライス国はそこから魔法を教わっているみたいなの」
「じゃあそのゴベル国なら、こうやって魔法を使えるやつもいるってことか?」
「……その国に行ったことがないから分からないけど。少なくともブライス国ではこんな風に、日常的なことに魔法を使う人はいなかったし、そんな魔法の使い方を教えてなかったよ。 使い道は攻撃か防御のどちらかだけだったもん」
「……そうか」
私の言葉を聞くなり、ユリウスは眉間にしわを寄せて考え込んでしまった。
そんな様子を不思議に思って首を傾げる私に、「冷めないうちに飲んでください」と湯気の立つカップを手に持たせてくれるシーク。
……なんだかとっても子供扱いされているような気がする。でもそれを言ったらにこやかに毒を吐いてくるに違いないし、それに勝てる自信もない。言いたい言葉を飲み込んで、勧められるまま素直に紅茶に口を付けた。
フルーツの香りのするとっても甘くておいしい紅茶だったから、やっぱり子供だと思われているんじゃないかという疑いに拍車がかかったけれど、美味しいからとりあえずよしとする。
紅茶で一息ついている間に、何か考え込んでいたユリウスはいつもの表情に戻っていた。ベッドから立ち上がると私の向かいの椅子に座る。
足を組んで外へ投げ出してはいるけれど、長い足がとっても窮屈そうだ。
日本人特有のずんぐりとした体形な私は、椅子に座ってもつま先が床にやっとつくかどうかだ。
やっぱり外国の人って手足が長い。
まじまじとユリウスの足の長さについて考えていると、
「まったく。あなたはお茶を飲みながらユリウスを鑑賞しに来たんですか?」
シークの声にユリウスの笑い声。
つられるように二人の顔を見比べると、もう見慣れたあきれ顔のシークと口元を手で覆いながら笑いをかみ殺しきれていないユリウスが涙目でこっちを見ていた。
うっすら浮かんだ涙で濡れた真紅の瞳は、水にきらめく宝石みたいで。笑われているというのに思わず見とれてしまうほどに綺麗だった。