真紅の世界
落ちた剣を相手より先に利き手で拾い上げて、座った状態から相手の鼻先に剣先を突きつけた。
腕を切りつけられた痛みで、脂汗が浮かんでくる。でも、今は痛みをこらえるしかない。
レティを守れるのは私しかいないんだから。
「サ、サラッ!!」
私の左手から流れる血を見つけたレティが、背後で息を呑む気配がする。
でも、後ろを向くことが出来ない。
きっと、この目の前の甲冑を着こんだ相手から視線を離した瞬間、私は殺されるだろう。
それくらいに相手の威圧感がすごかった。
剣道の試合とは全然違う。
これが命を懸けた戦いなんだ。
そんな知りたくもなかった緊張感の中、私はどうすればレティを安全にお家に返すことが出来るのか、それだけを必死に考えていた。
「レティに、手を、出さないで……!」
左手からの出血の量が多すぎて、剣がどんどん重く感じてくる。
ぐらぐらと視界が揺れて、もう意識を手放してしまいたくなるけれど。でもここで手放してしまったら、レティが危ない。
こんなに純粋で可愛いレティ。
私の話を嘘だと一度も言わずに、信じてくれたレティ。
そんないい子を、危険な目に合わせるわけないはいかない。
カチャリ、と甲冑を鳴らした相手が一歩近づいてくる。
「来ないで!」