真紅の世界
「っ!」
痛みを堪えたような微かな息が聞こえて、レティは慌てて甲冑の男へと駆け寄る。
「大丈夫ですか!? お兄様ッ」
そう、甲冑の男はこのブライス国の第一王子。そして、レティの敬愛する兄、アレンだった。
アレンはレティが止める間もなくサラを切りつけてしまったのだ。
そのショックで口を開けないでいたレティは、自分を責めた。
自分がもっとしっかりしていればよかったのだ。そうすればサラが倒れることもなく、アレンに説明してすぐにサラを手当てすることができていたのだから、と。
そんなレティの内心の葛藤すら見越しているのか、アレンはレティの柔らかな髪を優しく撫でた。甲冑の面を外して、レティを安心させるように微笑んで言った。
「レティが気に病むことはない。 てっきりレティを誘拐したのかと確認もせず切りつけた俺が悪いんだから」
しかし、とそこで言葉を切ったアレンの言いたいことは、レティにはよく分かった。
アレンの視線の先には、見慣れない服を着たまま倒れているサラがいた。
アレンもまた、先ほどの魔法を使ったのがレティではなくあの少女だと分かっていたのだ。
切りつけた瞬間に剣を取られたことに、アレンは感嘆していた。
そしてそれをしたのが女だということに、更に驚いた。
最初の一撃で左手を差し出したのは、次の攻撃をすると決めていたからだと分かったから。