真紅の世界
「名前はあるの?」
瞬き一回。
名前はあるらしい。
「誰かに使役されてるの?」
瞬き二回。
使役はされてないらしい。
あれ? と思うけれど“どうして使役されてないのにこの世界で生きていられるの?”という質問を、イエスノーで解答出来るように質問する方法が思い浮かばない私は、名前の問題に戻ることにする。
「名前、私が勝手につけていい? 呼ぶのに困るでしょ?」
瞬き一回。
つけてもいいみたいだ。
なんて心の広い生き物なんだろう。
「黒いからってクロは安易すぎるよねー。 あ、私サラっていうの田崎幸来。 私のいた世界ではね幸せが来るって意味なんだよ。 つけたのは施設のウメさんでね、私のこと育ててくれた人なの。施設ってわかる? 孤児の子たちが集まる施設でね、私、本当の両親の顔しらないの。赤ちゃんの時に、施設の前に捨てられてたんだって」
長い廊下を黒い物体と歩きながら、何故か私は黒い物体に生い立ちを話していた。
誰でもいいから、この世界の誰かに私のことを知って欲しかったからなのかもしれない。
この世界には、私のことをちゃんと知ってる人がまだ誰一人としていないから。