真紅の世界
「その扉すべて、お兄様が魔法で開かないようにしていたはずだわ」
そんなビックリなことを言うレティを笑い飛ばしたかったけれど、小さな少女が嘘をついているようにはとても見えない。
じゃあなんで、私じゃここまで来れたんだろう? とさっきレティに言われた疑問が浮かぶ。
「……レティのお兄様が魔法に失敗したとか?」
あり得ないとは思うけど一つの可能性を提示したのに、即答で「お兄様はそんな失敗なさらないわ」と否定されてしまう。
うん、そうだよね。
レティはお兄さんの魔法は素晴らしいって言ってたもんね。
「そもそも、そのシンクって生き物はどんな姿だったの?」
「どんなって、真っ黒で、赤い瞳が綺麗で、大きさはこれくらいで」
これくらい、と手で大きさを示しているのに、レティは考え込むようにして一言も発してくれない。
もしかしてレティはシンクのことを怪しんでいるのだろうか。
私は慌ててシンクについての説明を付け足した。
「でもねっ! “キュイ”としか鳴けなくて話せないから等級は低いと思うよ? それにレティの場所を聞いたらここまで連れてきてくれたし、意外に照れ屋だし!」
「でも、動物の姿はしていなかった?」
私の説明を聞き流しているのか、レティは真面目な顔で質問を重ねた。
「確かに、丸い靄みたいだったけど……」口ごもって答えることしかできない。