真紅の世界
「なるほどな、何かを守るときに限って詠唱なしで使えるのか」
「なに、よ、それ?」
分からないから尋ねたのに、「お前に説明する義理はない」の一言で断ち切られる。
「魔法の力は未知数。一応、実験の余地はあり、ということか」
顎に手を当てて呟く姿は、本当に絵本の中の王子様そのものだ。それなのに、その口から放たれる言葉は悪魔のそれだった。
実験って、なによ。
最悪なことしか想像できなくて、身体が震える。
「よし、しばらく我が城に住むことを許可する。 魔法も学ばせてやる」
突然の提案に、私は頷くことも反発することもできない。
ただ、目の前の人が怖くて仕方ない。
施設で育っていたから、偏見や差別の視線には慣れっこだけど。
でも、これはその比じゃない。
自分を人間とすら認識されていないような視線が、怖くて怖くて、噛みつく勇気すら絞り出せない。
「ただし、毎日お前の魔力を実験する」
その言葉を聞いてから、どれくらい時間が経ったのかも分からないくらい私は放心していた。
気づいた時には、最初に目の覚めた部屋の床に寝転がっていて、そして目の前にはそんな私を見下ろす、またもや見たことのない人がいた。