真紅の世界
昔、こういう奴隷制度や人種差別、人体実験があったことは教科書からの知識で知っていた。それが世界のどこかでは、まだ存在していることだとも。
それを知った時、私は確かに、“こんなの理不尽だ”と痛いほど実感したのに。知識として知っているのと、実際にそれを目の当たりにするのじゃ衝撃の度合いが違った。
私には血の繋がる人がいなかったけれど、笑い合える家族がいた。
施設育ちだと揶揄されることはあっても、それは自分の実力を見せつけることでどうとでもなったし、いじめられることもなかった。
卑屈になっていた自分の環境が、どれだけ恵まれていた環境だったのかと、思い知る。
きっとこの人たちは、これが異常なことだとは思っていない。
これが当たり前の生活なんだ。
「私たちは、新しい魔法を創り上げ、既存の魔法を強化し、どんな魔法がその身に秘められているかなどを調べる」
ピタリと立ち止まったウルはくるりと振り返り、私を見据えた。
その瞳は真っ黒で、何の感情も伝わってこない。
もとからそういう瞳をする人なのか、それともこの環境のせいでそうなってしまったのか。それは分からないけれど、もし後者ならとても悲しい。
「お前はレティ様のお気に入りだそうだから、実験の後治療し部屋に戻すようアレン様に言われている」
「治療……?」
「レティ様にはこの実験やこの部屋をご存じない。 もし知られるような真似をしたら命はないと覚えておけ」
「待って、実験ってなによ!?」
どうしようもない恐怖に、身体がすくむ。
頭の中に浮かんだこれから自分を待ち受けるであろう状況を、否定したくて仕方がない。