真紅の世界
「魔法攻撃による守備は、詠唱なしで無条件に守られるのか」
いいながら今度はどこから出したのか、手にした長剣を躊躇うことなく私にふりかざした。
目をつぶりながらも、とっさに身体をひねる。
でも避けきれなかったのか、脇腹に鋭い痛みが走った。そのあとに、ジクジクと持続する痛みが襲う。
生暖かい感触が脇腹から太ももに染み渡る感覚がして、本格的に恐怖で身体が震え始めた。
甲冑の人に切られたときは、レティを守ることで無我夢中だった。
でも今はそうじゃない。
どうしたらいいのか分からないし、この痛みがいつまで続くのか分からない恐怖で頭が埋め尽くされていく。
「物質攻撃による守備は皆無、どういう仕組みだ?」
微かに首を傾げるウルは、疑問を口にしていた。
私の身体の震えも傷も気にする様子はない。ただその疑問を解明するために
更に攻撃を仕掛けてきただけだった。
永遠にも思えるような痛みと苦しみで声を出すことすらできない。
朦朧とした意識の中で聞こえてきたのは、不思議な声。
『我が名を呼べ』
微かに聞こえたその声。
優しくて、でもどこか焦っているような、そんな声。
呼んだら、助けてくれる?
元の世界に戻してくれる?
薄れる意識の中で問いかけてみるけど、聞こえるのは
『我が名を呼べ』
同じ言葉。
誰でもいいから助けてほしい。
あなたは誰?
名前を教えてくれなきゃ呼べないよ。
それなのに、響く声は同じ言葉しか繰り返してくれなかった。