真紅の世界
午後の授業は、魔法の基礎のからだった。
文字の読めない私は、レティに言葉で教えて貰いながらの授業だ。
基礎の基礎からはじめてみたけれど、言われた通りにやっているはずなのに、うんともすんとも言わない。
「……サラ、本当に魔法使える?」
と言われてしまうほど、何も起こらなかったのだ。
初めて自分から試みた“小さな火をおこす”という魔法は、結局最後までできることなく夕飯の時間を迎えてしまった。
基礎すらできない自分に意気消沈しながら、豪華な食事に手を付けている私にレティは励ましの言葉を必死にかけ続けてくれている。
「魔法と魔法を使う者の心って密接な関係があるの、きっとこの世界に来たばかりで心が疲れてるから魔法が使えないのよ」
レティのその言葉は嘘じゃないんだろう。
でも私にはそれが理由だとはとても思えなかった。
昨日の夜中には、自分の身体を守るときに無意識に魔法使えたからだ。
でもそのことは言えない。だからとりあえずは「うん、明日も頑張ってみる」なんて、前向きなことばでレティに笑顔を向けた。
この後部屋に戻って、数時間後にはあの地下室に行くことになるんだと考えるだけで、胃がムカムカして美味しそうな食事も喉を通らない。
まだ食べているレティには申し訳なかったけれど、疲れているからと食事の途中で退席したいことを告げる。食事の途中で席を立つなんて、絶対にマナー違反だと思うのに、レティは嫌な顔一つせず、むしろ私を心配してくれながら退席を許してくれた。