真紅の世界
あてがわれた自分の部屋の大きなベッドに、思いっきりダイブする。うつぶせの状態で飛び込んだのに、柔らかなマットが衝撃をきれいに吸収してくれたらしい。顔に当たるマットの感触が心地いいだけで、痛みは全然なかった。
客室とはいえ、このベッドはとてもいい物なんだろう。
それでも私は、あっちの世界の固いマットが恋しかった。
部活で酷使したときのどこか心地いい疲労感ではなく、身体が鉛にでもなったかのような重くて辛い疲労感が一気に襲ってくる。
「……帰りたいなぁ」
呟いた本音が静かな部屋にむなしく響く。
その声が消えていく余韻さえもが、孤独を助長しているようで気分が重くなる。
「キュイーッ」
突然耳元で聞こえたその声に勢いよく目を開ければ、目の前には赤い瞳のシンクがふよふよと浮いていた。
「シンクっ!!」
急に現れたシンクに、まるで家族に会ったような気持ちがこみ上げてきてしまう。衝動のままにその黒い塊を胸の中に抱きしめた。
「キュイッキュイッ」
胸の中ではシンクが何か騒いでいるけれど、離してあげられない。
シンクのぬくもりは感じられないけれど、それでも不思議と胸の中がじんわりと暖かくなる。今はとにかく、胸の内に巣くった孤独を少しでも軽くしたかった。
「どこ行ってたの? シンクがいなくなってから色んなことがあったんだよ」
ギュウっと抱きしめているから、シンクがどんな表情をしているのか分からない。そもそもシンクから表情を読み取ることなんて、できないんだけれど。
でもシンクはもう騒いではいなかった。私の変化に気付いてくれたのかもしれない。それが余計に胸をあたたかくしてくれる。
「この国、こわい……」
誰にも言えない胸の内をシンクに溢してしまうのは、きっと私の弱さなんだろう。それでも吐き出さずに抱えていることはできなかった。
一人で抱え込んでいたら、発狂しそうで。だからつい、シンクに言ってしまう。