真紅の世界
仰向けになって、両手で抱えたシンクと真正面で向き合う。
シンクは瞬きを4度した後、「キュイー」と弱々しい声で一度だけ鳴いた。
「心配してくれてるの?」
シンクの様子がまるで”大丈夫?”と言っているように思えて。
思わずそう尋ねた私に、シンクは瞬きを一回返してくれる。
シンクの前だと、話す時にあれこれ考えずに素直に言葉にできるからとても楽だ。
レティも確かに心配してくれている。でも、レティの後ろには常にアレンがいるような気がして、素直にその心配を受け取れないのも事実なのだ。
シンクが心配してくれるのは、打算もなにもない、ただ心からの心配だと思える。
それはシンクがアレンやレティも知らない存在だからなのかもしれない。
この国とは関係がないらしいシンク。
それでも私を気にかけて、こうやって心配してくれるシンク。
だからそんなシンクの心配は素直に嬉しく思えるのだ。
シンクの心配は、当たり前のことだけど、ちゃんと私は人間なんだって分からせてくれるから。
「ありがとう、シンク」
両手をそのまま口元に引き寄せて、昨日と同じように口があるあたりにキスをすれば、赤い瞳が半眼になってこっちを見てきた。
「なに? 怒ってるの? もしかして昨日ファーストキスだった?」
からかうように言えば、瞬きを二回する。
この正体不明のもやもやは、キスは経験済みらしい。
それに少しだけむっとする。
「なんだファーストキスじゃないの? 私はシンクがファーストキスなのに」
正直に暴露してため息。
もやもやのくせに、私より進んでるだなんて。
この年になっても恋をしたことがない私は、もちろんキスなんてしたことがなかった。
施設では動物なんて飼っていなかったから、動物にキスをするなんてこともなかった。
もしかしたら赤ちゃんの時にウメさんあたりにキスされていたかもしれない。
でもそれはノーカウント。
物心ついたときからは、絶対に誰にもキスしていないしキスされていない。
だから正真正銘、私のファーストキスの相手はシンクだった。