真紅の世界
「痛いのは嫌だし、あんなとこ怖いし、正直逃げ出したいけど。でも、私がこの世界で生きていくには仕方ないことだし、朝には治してくれるし。レティは可愛いし、シンクもたまに遊びに来てくれるでしょう?」
前半は独白のような感じで、最後に急にそう訊ねたのに、シンクは間髪入れずに「キュイっ」と鳴いて瞬きを一回してくれた。
その瞳が心配そうにしているように見えるのは、私の都合のいい思い込みなんだろうか。
「シンクが、人間だったらいいのに……」
目の前で漂うシンクを再び両手で捕まえて、私の顔の横に置く。
赤い瞳をじっとみつめると、不思議と穏やかな気持ちになれる気がする。
シンクも私から目をそらさずに、ただじっと私を見つめていた。そうやって見つめ合いながらぽつりと呟く。
「そうしたら、もっといっぱい話して、辛いときとか抱きしめて貰ったり、シンクに勉強教えて貰ったり……」
シンクが人間だったら楽しいんだろうな、なんて取り留めのないことを考えながら言葉にしているうちに、私は自然と睡魔に襲われて意識を手放した。
『我が名を呼べ、サラ……』
あの声が、再び聞こえたのは気のせいだったのだろうか。