真紅の世界
「起きろ」
不機嫌そうなその声に、私は瞼を開けた。
あれ? いつの間に寝ていたんだろう。
キョロキョロと見回してみてもシンクの姿は無くなっていて、変わりに銀髪のウルが鋭い目つきで睨みつけていた。
まだ完全に起きていない頭を起こしながら、またあの時間が来たのかと気分が重くなる。
ウルはやっぱり表情を変えずに「行くぞ」と私の返事も待たずにドアの向こうへと消えていく。
逃げても仕方ないし、きっともっとひどい目に合わされるだろう。
ため息を一つついて、足早に歩くウルの後についていくと、昨日と同じ地下室へとたどり着いた。
「今日も昨日と同じ実験を行う」
「……同じことをしてなにか意味があるの?」
昨日結果が出たんだからできれば痛くないことにしてほしくて言ってみるけれど、
「それがアレン様の御意志だ。 昨日とは違う結果が出ることをアレン様は懸念している」
そう言われて何の合図もなしにウルに魔法攻撃を仕掛けられた。
やっぱり魔法攻撃は私が意識しなくても防ぐことが出来るし、物理攻撃には一切の防御魔法が発動することがないという、昨日と同じ結果だった。
そして痛みと苦痛の中で意識を失って、次の日の朝目覚めたときには昨日受けた傷は綺麗に治った状態で自分の部屋にいた。
「……いくら治ると分かってても、毎回あの痛みを我慢しなくちゃいけないのは、きっついなー……」
溜息まじりに呟いて、窓から見えるきれいな景色を眺める。
窓の外には小さなバルコニーがあって、そこで素振りくらいならできそうだった。
棒切れが見当たらないので、何も持たずにイメージトレーニングで素振りを始める。
剣道をしているせいで手には剣だこがあるし、足の裏は固くなっている。
それがなくなる頃には、私はここの生活にも慣れているんだろうか、なんて思いを馳せてそれからレティが来るまで素振りを続けていた。