真紅の世界
空耳なんかじゃなくて、確かに聞こえたはずなのに。
首を傾げている私に、「ここでございます、サラ様」と今度は下から声が聞こえてきた。その声に視線を足元に下げてみると、そこには小人がいた。
「うぁっ!」
思わず声を上げて驚く私にも、動じることなくただ立っている。
まるで最初からそこにいたかのように、悠々とした顔で私を見上げながら。
少しだけ距離をあけて、ドキドキしながらもその小人と視線を合わせる。
身長は30センチあるかないかくらい小さい。鼻は鉤鼻、口は大きくて暗い緑色の目はぐりんと大きい。
耳は尖っていて、ニンゲン、とは少し違うような……。でも、魔物というのも違うような……。あいまいなもののようにも見えるその小人は、真っ黒なローブを被っていて、裾が引きずる程長いから足がちゃんと二本あるのかも分からない。
その大きな目をパチパチさせながら見上げてくるから、私もそらすことができずにただ見下ろす。するとその小人は、にっこり笑って唐突に切り出した。
「私には知らないことはありません。あなたの質問に答えてあげましょう」
「え?」
「知りたいことをおっしゃってください」
突然の言葉についていけない私は、手始めに相手の名前を聞いてみることにした。
「じゃあ、あなたの名前は?」
「わたくしに生まれ持った名前はございません」
その言葉を聞いて真っ先にウルが思い浮かんで、次にアレンの顔が浮かんだ。