真紅の世界
もしかしてこの小人の“ご主人様”はアレン?
思わず一歩後ずさってしまう。
「でもご主人様がつけてくださった名前はクリフといいます。 クリフとお呼びください」
続いたその言葉で、知らずのうちに入っていた力がふっと抜けた。
アレンは名前を付けるようなことはしない。
レティが名付けたことさえ知らないだろうから、ウルがウルという名前を持っていることすら知らないんだろう。
自分で名前をあげることすらしないアレンは、クリフの“ご主人様”じゃないんだ。
「じゃあ、私が元の世界に帰る方法は?」
「それはお答えできません」
「このブライス国は他の国からはどう思われているの?」
「それもお答えできません」
「じゃあなんなら答えられるの?」
「私に知らないことはありません。 でも答えられることが限られているのです」
「だから、どういう質問なら答えられる?」
「あなたが心から知りたいと思っている願いなら」
気を取り直して質問したのに、クリフは答えられないの一点張り。
堂々巡りのようなやり取りが、延々続きそうな気さえしてくる。
どれも知りたいと思っていることなのに、答えは知っていても私には教えることができないらしい。
でも最後の“心から知りたいと思っている願い”というクリフの言葉で思い浮かんだのはただ一つ。
『我が名を呼べ』
初めてあの地下室で意識を失う時に聞こえたあの声のこと。