真紅の世界
“……よべ”
その時聞こえてきたのは、いつも意識を失う時にしか聞こえない声。
窮地に陥った私の幻聴かもしれない。
けれど私に残されたたったひとつの光が、今唯一の助けだった。
それでも躊躇してしまうのは、たとえ呼んだとしても状況が変わらなかったら余計にこの後起こることが辛くなるだろうと、容易に予想できたからだ。
その間にもウルは近づいてくる。
距離を取ろうと後ずさる私の背は、とうとう壁にぶつかって、これ以上ウルから離れることは出来なくなってしまった。
ガクガク震える足からはついに力が抜けて、壁伝いにずるずるとその場に座り込んでしまう。
見下ろすウルの表情が、ウルの後ろの電気のせいで見えなくなる。
表情の隠れたその姿は、ウルだと分かっていてもウルじゃないみたいで。
まるで魂を取ろうと鎌を振り上げている、死神のように見えてしまう。
ボロボロとこぼれる涙。
もうダメだ、と諦めかけたその時聞こえてきたのは、
“我が名を呼べ! サラッ!”
いつもの淡々とした声じゃなくて、切羽詰まったように私を呼ぶ声。
それに応えるように、私は叫んだ。
「助けてッ! ユリウス!」