真紅の世界


その瞬間、私はまばゆいばかりの光に包まれた。


恐る恐る周りに視線を向けると、目の前のウルは驚愕に目を見開いて、握っていた小刀は手から離れて石の床に転がっている。

そのウルの視線は、私を素通りして私の後ろへと向けられていた。


「キュイッ」


その声が真後ろから聞こえて、私はウルの存在も忘れて勢いよく後ろを振り返ってしまう。

そこには、誰かがいるときには絶対に姿を見せなかったはずのシンクが、ふよふよと浮いていた。

魔界の生き物は、人間の姿か動物の姿をしているのが普通とされている。史実にも載っていない、靄の塊のような黒いシンクは珍しいらしく、この地下室にいるすべての人の視線がシンクに集まっていた。


何があろうとも傷つけ合っていたのに、その手を止めてしまうほどシンクの存在は異質だったみたいだ。

シンクのすぐそばにいる私に向けられていると錯覚してしまうその視線は、畏怖であったり好奇心であったり蔑みであったり、どれも私にも覚えがあるものだった。
こういう視線を向けられるのが嫌で、シンクは私以外の前では出てこなかったのかもしれない、なんて思っているとウルが口を開いた。


「……88番、それはお前の使い魔か?」

「ちがうよ! シンクは私の友達だよ!」

「……友達? 力でねじ伏せるか助けて契約を結ぶ以外で、我々が裏の世界の生き物と関係を結べるはずがない」

「でも、シンクは……ッ!!」


もしかしたらシンクがウルに殺されてしまうかもしれないと、必死で庇おうとする私の目の前にシンクがふよふよと飛び出してきた。

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