真紅の世界
シンクはウルと向き合っていて、私に背中を向けている。
あの綺麗な真紅の瞳は見えなくて、ここからじゃただの黒い靄の塊にしか見えない。
それでも私の腕の中に飛び込んでくるでもなく、こうやって私の前に飛び出してくれた。
この世界に来て、私を身を挺して守ろうとしてくれた初めての存在。
こんな小さな身体で私を守ろうとしているのだろうか、と思い至ってそれだけで胸が熱くなって視界がぼやけてしまう。
「シンク……」
涙まじりで掠れた声で呼びかけると、ウルの方を見たままいつものように「キュイッ」と返事をしてくれる。
「シンク、もういいから。 その気持ちだけで十分だから、早くお家に……」
「それはできないな。 捕まえてアレン様に見て貰わなければならない」
早く逃げてとシンクに促す声は、ウルの容赦ない言葉によって遮られてしまう。
痛いのも嫌だけれど、この世界で唯一私と本当の意味で心を許せる存在のシンクが痛めつけられるのはもっと嫌だ。
私は咄嗟に目の前に浮かぶシンクを両手で掴んで、腕の中に抱え込む。
シンクは腕の中から逃げ出そうともがくけれど、それを押さえつけてウルの冷たい視線と真っ向から向き合った。
怖い。
けれど、シンクを守れるのは私だけだ。