真紅の世界
私の言いたいことなんて分かっているとばかりに、目の前の男は、シンクがしたように安心させるようにゆっくりと一つ瞬きをして、同じ言葉を繰り返した。
「我が名を呼べ、サラ」
「……ユ、リウス?」
つっかえながらもクリフに教えて貰った名前を口にした途端、私たちを包み込んでいた赤い光は一気にはじけ飛んだ。
そして、赤い光が現れる前と同じ薄暗い地下室に景色が変わる。
当たり前のようにウルがいて、他の人からの視線が集まっているのも変わらない。
唯一違うのが、ウルも含めてこの場にいるすべての人の表情が恐怖に染まっていることだった。
「……お前は、誰だ」
すぐさま表情を引き締めたウルが、シンク……ユリウスに気丈に尋ねた。けれどユリウスは、そんなウルを見下ろして「名乗っていいのか?」と意味深に笑みを浮かべる。
きっとあの光の中でのやり取りは、ウルたちには聞こえなかったし見えなかったんだろう。
その問いに答えず黙り込むウルに、無言を肯定ととらえたユリウスが「俺の名はユリウス」とあっさりと名前を口にする。
「どこから侵入した」
「さっきからいただろう」
「……さっき?」
「あぁ、サラに羽交い絞めにされていて苦しかったが、ちゃんと目の前にいただろう?」
それでやっとユリウスが黒い靄の塊だと気づいたのか、ウルはハッとしたように息をつめた。