真紅の世界


「まさか、そんな、……あり得ない!」

「あり得ないことはあり得ない。 実際俺はここにいるだろう?」


私にとって恐怖の対象だったウルが、ユリウスを前にすると子供のように感じられる。

それはユリウスがそばにいてくれるという安心感からなのか、ユリウスから感じられる威圧感からなのかは分からないけれど。


ウルの戸惑いを意に介することもなく、ユリウスはふと視線を宙に漂わせ「ダリア」と小さく声を出す。

それはそばにいた私にしか聞こえなかったみたいだけれど、その名前には憶えがあった。


3つの尾のある大きな犬。レティの使い魔。


そう思った瞬間には足元に小さな光の渦が現れた。それが一瞬で膨らんだと思ったら、次の瞬間にはレティに見せて貰ったダリアと寸分違わないダリアがそこにはいた。


「……久しぶりだな」

『……はい』


それでもあの時会った時のような態度ではなくて、借りてきた猫のようだ。
三つの尾は地面にぺたりと垂れ下がっていて、頭は項垂れ耳も垂れ下がっている。

なんだか今なら頭を撫でてもなにしても、ダリアは何も言わないんじゃないかと思えるくらい、あの日の不遜な態度とははまるで違っていた。

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