真紅の世界
「ずいぶんとここにきて改心したようだが、この国の姫に嘘をついたのは自分の過去を知られたくないからか?」
『……はい』
さっきまで私が傷つけられそうになって切羽詰まった状況が嘘のように、ユリウスはウルを無視してダリアに話しかけている。
「戻りたいか?」
『いえ、俺はここに残ってあの子と、……レティと一緒にいたい』
「……その心を、あちらにいるときに持ってもらいたかったな」
皮肉とも取れるような響きを持つその言葉に、ダリアは黙り込んでただ視線を下げた。
そんなダリアとユリウスの関係性よりも、私はユリウスが言った“あちらにいるとき”という言葉が気になって仕方がない。
まるで“ここじゃない世界”のことを指しているような言い方。
私が知らない“ここじゃない世界”っていうと、レティの言っていた裏の世界と呼ばれる魔界ぐらいだ。
でも、ダリアはもともと魔界にいたのだから、魔界の話をしていても不思議じゃないし、ユリウスが魔界の人だって言われても疑う余地はない。
というよりも、ユリウスはきっと魔界の人なんだろう。
「お前を変えてくれたこの国の姫に免じて、王子を殺すのはやめてやるか」
溜息まじりに言った言葉に誰よりも早く反応したのはウルだった。