真紅の世界
落とした小刀を素早い動作で拾い、一瞬でユリウスに近づいたウルはそれを躊躇うことなくユリウスの喉元に振りかざした。けれど、まるでユリウスの周りに壁があるかのように、切っ先はユリウスに触れることなく弾かれた。
我を失ったように、何度も小刀を振りかざしながら魔法で攻撃をしかけているウル。その鬼気迫る様子に思わずユリウスの服の裾をぎゅっと掴んでしまう。
けれどどんな攻撃も、ユリウスに傷一つつけることはできなかった。
息切れしていくウルとは対照的に、息一つ乱すことなくただ腕を組んでウルを見やるユリウス。
そのユリウスが何を考えているのかも、何のためにここにいるのかも分からない。
それでもはっきりしていることがある。
ユリウスは私の敵じゃないってこと。
「アレン様を侮辱するなッ」
「アレンとやらは、お前がそれほどまでに崇拝するに値する奴か?」
声を荒げるウルに対して、飄々とした態度を崩すことなく尋ねるユリウスは、この状況を楽しんでいるようでもあった。
「お前たち魔法の使える奴隷層を地下に閉じ込め、姫や他の住民に知られることなく人体実験まがいのことをさせる王子は、本当に尊敬できる人物なのか?」
「これはこの国をよりよくするために、アレン様が私たちに与えてくださった仕事だ!」
無表情で感情なんてないように思えたウルが、こんなにもアレンのために感情を露わにしていることに驚く。
淡々と、言われるがままに人形のようだったウルに、こんなにも熱い感情があったなんて。
「素晴らしい心構えだな。 ……だが、異世界から飛ばされた何も知らない娘を切り付け、魔法で攻撃し、防御魔法が使えたからといって仕組みを調べるために痛めつけ、あまつさえ額を開けようとしたお前の主の考えは俺は理解したくもない」
「……っ、」