真紅の世界
「シンク……」
つい、真っ黒な塊だった時の名前が口をついて出て、ユリウスは一瞬目をまん丸く見開いた。けれどその瞳を細めて綺麗な微笑みを浮かべてくれる。
「お前がつけてくれたその名も好きだが、ユリウスと呼んでくれると嬉しい」
と、歯の浮くような、それでいてとてもユリウスに似合っているクサいセリフを綺麗な声に乗せてくる。
ぞわぞわと、鳥肌が立つ。
まるで、生でオーケストラを聞いた時のような、ゾクゾクする高揚感と共に鼓動が高鳴る。
「……ユリ、ウス……さん」
名前を口にしたもののこんな綺麗な男の人を呼び捨てで呼ぶのが躊躇われて、最後に“さん”を付けたのは恥ずかしさもあった。
それなのに、「“さん”はいらない“ユリウス”だ」と口調は柔らかいのに有無を言わせない迫力を秘めた声に、私はもう一度名前を、今度はさんを付けないで呼んだ。
こんな状況だけれど、ユリウスの真っ赤な瞳と至近距離で見つめ合っているこの状態は恋愛経験ゼロの私にはあまりにもハードルが高すぎる。
そんな私の心臓事情を知るはずのないユリウスは、私の後頭部に大きな手を添えて、もう一つの手を私の腰に回す。
ゆったりと抱きしめられている状況になって慌てる私が逃げられないように囲ってから、さっきよりも近づいた距離でもう一度同じ言葉を言った。