真紅の世界
まるで物色するような、不躾な視線を隠すことなくよこす短髪の人の視線にさらされる。出て行けと言われるんじゃないか、とビクビクしてしまうくらいその視線はあからさまに私を検分していた。
短髪の人は私から視線を外すと、一つ溜息をつく。そして、「まぁ、なんとか及第点ですね」と、微妙なセリフをくれた後、ユリウスを隣の椅子に座るよう促した。
……え?
と、状況が分かっていないのは私だけだった。
ユリウスは促されるまま、当たり前のようにその椅子に座って長い足を組む。
その真紅を基調としている豪華な椅子に座るユリウスは、この上なく似合ってるんだけど。とってもお似合いなんだけど。でも、そこは座っちゃまずいんじゃないだろうか。
あたふたとユリウスと短髪の人の顔を交互にみやる私に、「名前は?何とおっしゃるのです?」とやけに丁寧な言葉をかけてくれた短髪の人。その質問に答えようとした私よりも先に、ユリウスが「サラだ」と短く答える。
……絶対この人私に聞いてくれたのに。
同じことを思ったらしい短髪の人は、呆れたように「……私はこの方に聞いたんですが」とこぼすけれど、
「お前にサラの声を聞かせるのは勿体ない」
こっちが赤面するようなセリフを、サラッと言ってしまうユリウス。
もったいないって、私の声なんてどこにでもあるような声ですけど。
むしろお二人の方が、すごく素敵ボイスですけど。
なのに、二人のやりとりに口をはさめない。
二人の話題が私だからというのもある。
完全にこの状況に私は、置いてけぼりにされていた。このことに気づいてて分からないふりをしているんだとしたら、この二人はとっても意地悪だ。
相変わらず笑みを浮かべているユリウスは、ふいに椅子から立ち上がって台座から降りてくる。そのまま私の前に立つと、ふてくされる私の手を引いて台座の上へと登らせる。
ユリウスの座っていた椅子を横に、向かい合って手をつなぐ私とユリウス。その真紅の瞳で、まっすぐに私を見つめながら、楽しそうな声音で言った。
「我が国へようこそ、サラ」