真紅の世界
「サラは俺が幸せにする」
「ありが……」
ダメ押しのように続けられた言葉に、条件反射でお礼を言おうとしたけれど、ハタと我に返って途中で慌てて言葉を切った。
……今のって、特に特別な意味はないんだよね?
思わず“ありがとう”って言いそうになったけど、さっきの言葉って、受け取り方によってはプロポーズのようにも聞こえてしまう。
“が”の口の形のまま固まる私に、相変わらずほれぼれするような笑みを浮かべたままのユリウス。
そして堪えきれなくなったのか、隠すこともせずお腹を抱えて蹲り、床をバンバン叩きながら爆笑する短髪の人。
今更だけど、この人の名前なんなんだろう。
「あの」
「ん?」
声をかけたはいいけど、何気ない“ん?”にさえ甘さが含まれていると感じる。さっきのセリフを深読みしてしまったせいだろうか。
もう一度ごくりとつばを飲み込んで、同じ言葉で声をかけてみる。でもやっぱり、甘い“ん?”が返ってきた。
聞き間違いなんかじゃなかった。本当にユリウスの声に甘さがあふれていて、今度こそ赤面してしまう。
「どうした? サラ」
片方だけ掴まれていた手を柔らかく持ち上げられて、これ見よがしにその手の甲にふわりとした口づけを落とされた。
しかも口を付ける瞬間でさえ私の瞳を見つめたまま。
その真っ赤な瞳から視線を逸らすことさえできなかった。
少し視線を逸らすだけで、ユリウスのその仕草を見なくて済むのに。そのことに考えが及ばないほど、真っ赤な視線にくぎ付けにされていた。
その一連の流れるような動作のあと、優に10秒は経ってやっと、その赤い瞳の呪縛から解放された。慌ててユリウスの手から自分の手を抜き取る。