惑溺
「さっきまで仕事でカクテル作ってたんでしょ?
家に帰って来たのにわざわざまたカクテル作るなんて、本当に好きなんだね」
棚の上に並べられたたくさんのお酒のボトルから、手際よく選び出しカクテルを作るリョウ。
私はソファに座り、さっき彼が作ってくれたミルクのカクテルのふわりと甘い匂いをかぎながらそう聞いた。
「別に。好きっていうか、修行中だから。
真面目に練習に励まないと」
「え?修行中なの?」
そんなに綺麗な手つきで、そんなに堂々とこんなに美味しいカクテルを作れるのに?
「修行中だよ。
本業はまだ学生。だから平日は早く店上がるんだ」
ああ、だから今日は10時に仕事終わったんだね。
バーテンダーにしてはやけに早く家に帰ってこれるんだと思ったら。
……って、
「えっ学生!?リョウが!?」
大学生だとしたら、21、2歳くらい…?
「もしかして、リョウって私より年下なの?
嘘、見えない……!」
こんなに落ち着きがあって偉そうなのに。
まだ学生だったなんてなんだか騙されていた気分。
「よく言われる」
あんまり私が驚くからかリョウはくすりと笑いながら言った。