惑溺
 
「……そうだ、プリン」


私の髪から手を離してリョウがそうつぶやいた。

ああ、そっか。
私プリンを食べるために部屋に上がったんだっけ。
でもとてもプリンなんて食べる気分じゃないよ。
このままここで眠ってしまいたい。

全身を覆う、とろりとした蜜のような心地よい倦怠感に目を閉じる。

リョウは立ち上がると冷蔵庫からプリンを取り出し、私が寝転ぶソファーまで持ってきた。


「ほら、食べろよ酔っ払い」

くたっとして起き上がる気配のない私を見て、リョウは大きくため息をつきソファーの横に座る。

「……ん、いらない」

この怠惰な時間が気持ちいい……。
お酒に酔うってこんな気分なんだね。
何も考えずただこのソファーに寝そべっていつまでもグラスを眺めていたい。

明日の仕事とか
聡史のこととか
私を取り巻く現実なんてもう、どうでもいい……

そう、夢見心地で呟く私に

「変な女」

リョウはクスリと笑いながらプリンの蓋を開けた。
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