惑溺
 
「何、泣きそうになってんだよ。後悔でもしてんの?」

「……何も覚えてない!」

涙ぐむ私を見て呆れた様に言うリョウに、その声をかき消すように叫んだ。

「お酒に酔ってたの。何も、覚えて……」

「嘘つくなよ」

震える私の言葉を遮って、冷たい瞳が私を睨む。

「嘘つくなよ。忘れた振りすんなよ」



冷ややかな視線で睨みながら、一歩ずつ近づいてくるリョウに、私は思わず後ずさる。
玄関の端にまで追い詰められて、背中を冷たいドアに押し付け息を飲んでリョウを見た。


暗闇の中、ぼんやりとした彼の輪郭が近づくごとにはっきりと浮かび上がる。
その逞しい裸の肩に赤い爪跡を見つけて、身体の中心が熱くなった。
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