惑溺
 

「……帰る」

真実から目をそらすようにうつむいて掠れた声でそう言う私を、リョウは無言でみつめていた。
その冷たい視線から逃げ出すように扉を開けて外に出る。


あの場所にいると自分が自分でなくなってしまいそうで怖かった。


酔いは醒めたはずなのに
冷静な自分に戻ったはずなのに


どうしようもなくリョウに惹かれている自分が、怖かった。


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