惑溺
思わず手にしていたカクテルグラスをライトに透かし、まじまじとその不思議な色を眺めていると
博美は私を振り返り、呆れたように苦笑した。
「あんたねぇ。
せっかく人が真剣に男を口説いてるのに、そんなとぼけた事言わないでよ。
由佳といると気が抜けるなぁ」
さっきまでの真剣な瞳を緩めて、両手でグラスを持つ私を見て笑った。
「……気に入ってもらえて光栄です」
彼は低く艶のある声でそう言いながら、黒髪からのぞく、ぞくりとするくらい綺麗な瞳で私を見つめた。
まるで人の事を観察するような冷ややかな視線。
薄暗い店内で彼の瞳がきらめくように光を反射する。
居心地の悪さに私の鼓動は早まった。
私の本能が『目をそらしては駄目』と警告音をならす。
まるで暗闇の中で目を光らせる獣が、獲物を観察しているかのように。
彼に見つめられているだけで、足がすくむような不安な気持ちになった。