惑溺
7
半地下へと続く狭い階段を下りて、重厚な木の扉を開ける。
扉を一枚隔てたそこは、外の賑やかな喧騒とは正反対の落ち着いた空間。
具合が悪いから、と聡史と別れた後、私の向かう先はひとつしかなかった。
リョウの働く店へ。
リョウが何を考えているのか、知りたくて仕方なかった。
ゆっくりと店内に入るとBGMもなにもない、静かで狭いカウンター内でリョウがひとり。
入り口に背を向けたまま、バックバーに並ぶお酒のボトルをひとつひとつ丁寧に磨いていた。
落ち着いた照明の中で白いシャツを着たリョウの後ろ姿がとても綺麗に見えて、はじめてこの店に来た日の事を思いだした。
あの日、ここに来なければ。
こんな苦しい想いをしなくてすんだのに。
そんな後悔をしたって、今更遅いってわかっているけど。