惑溺
ふ、と窓の外が目に入る。
そこにはぼんやりと白く光る夜明け前の空。
また霧……。
海が近いこの場所は霧がでやすいんだ。
そう思いながらソファーから立ち上がり、窓に近づく。
そっとガラスに触れるとひやりと冷たくて、私が吐き出したため息で白く曇った。
誰もいないその部屋で窓辺に立ち、白い霧で覆われた深夜の街を見下ろしていると、まるで暗い海の中をひとりきりでさまよっている気分になった。
出口のない深い霧の中に溺れていくような息苦しさ。
いっそこのまま溺れて全て忘れてしまえたら……
そんな馬鹿な事を考えていると、玄関の方でドアが開く音がした。