惑溺

そう耳元で囁かれた途端、両手の自由を奪われ体を窓に押し付けられた。

「……ほら、ちゃんと抵抗しろよ」

鼓膜を低く艶のある声が震わせる。
背中に冷たく固い窓ガラスの感触。前には熱く逞しいリョウの身体。


「ちょっと、ふざけないで!離して……!」

私が押さえつけられた腕を振りほどこうと力一杯もがいても、リョウの身体はびくともしなかった。
私の両手首を左手一本で簡単に押さえつけ、空いた右手で乱暴に私のアゴを押さえ正面を向かせる。


ぞくぞくした。
どうしていいのかわからないくらい。


どんなにもがいても振りほどけない罠にかかったように、自由にならない身体。
私はせめてもの抵抗の意思を込めて、目の前のリョウの綺麗な顔を睨み付けた。


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