惑溺
 
「……それ、本気で嫌がってるつもり?」

綺麗な口角をわざと歪めるようにして微笑む。
そこから吐き出される冷たい言葉。

「本気で嫌なら、もっと必死になって拒めよ。
そんなんじゃ、俺を誘ってるようにしか見えねぇ」

耳元で目眩がするほど色っぽい声が艶やかに響く。
低く喉を鳴らして酷い男が嘲笑った。

「……ッ!
誘ってなんか……!」

「誘ってなんか、いない?」

リョウは笑いながら、ゆっくりと私の耳たぶに舌を這わせた。
直接鼓膜を響かせるその声と、肌の上を這う熱く湿った感触。

「……嫌がってるようには、見えないけど?」


足掻けば足掻くほど、どんどん深く溺れていくみたいだ。
もう逃れようもない。


< 158 / 507 >

この作品をシェア

pagetop