惑溺
 





……酷い男。




なのに、どうしてこんなに惹かれてしまうのか。
自分が理解できなかった。

「由佳……」

やめて、そんなに優しく私の名前を呼ばないで。
そんなに優しいキスをしないで。

私は溢れそうになる涙をこらえてリョウの背中に爪を立てる。
私に覆いかぶさる彼は、ゆっくりと私の顔にかかる乱れた髪をかきあげながら耳元で静かに囁いた。


「由佳、なんで泣いてんの?」



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