惑溺

「ん……!!」

驚いてリョウを見上げた時には、私の身体はベッドの上で彼に組み敷かれていた。
小さな悲鳴は、私の口を押える彼の長い指に遮られ、電話の向こうにいる聡史には聞こえなかったようで

『今はちょっと思いつかない?いきなりだもんな』

言いかけた私の言葉をそう解釈した聡史が、穏やかな口調で会話を続ける。


そうじゃなくて……。




『もし特に行きたい場所ないなら、俺の地元行かない?』

携帯電話から聞こえてくるその声が、やけに遠くに感じる。
私の耳にはもう聡史の声は届かなくなっていた。

私の聴覚も視覚も触覚も、感覚のすべてが簡単にリョウに奪われる。

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