惑溺
床にちらばった服を拾い集め、ゆっくりと身に着けながら、大きなため息をついた。
ベッドから滑り落ちた電源の切れた携帯電話を拾い上げて、どうしようもなく泣きたくなった。
「シャワー浴びれば?」
リョウはまだ少し湿った黒い髪を気怠そうにかきあげながら、私を見下ろす。
「……いいの」
リョウの部屋でゆっくりシャワーなんて浴びる気分じゃない。
家に帰って、熱いお風呂に浸かって、ひとりきりで泣きたい。
それが何に対する涙なのか、自分でもよくわからないけど。
「あっそ」
俯いて首を横に振った私に、リョウは興味なさ気にそう言いながらベッドから立ち上がった。