惑溺
「べ、別に言いつけるとかそんなんじゃなくって……」
私が聡史になにか言ったりするわけない。
ただ、もし学校にバーで働いてるのがばれたら、きっと問題になるだろうって心配しただけなのに。
そう思いながらリビングに行くと、リョウはキッチンでコーヒーを淹れていた。
入って来た私をちらりと冷たい目で見ると、ゆっくりと目を伏せ話し出した。
「俺、母親の連れ子でさ。
小さい頃、血の繋がらない父親にいつも疎まれて殴られてた。
その目が生意気だとか、態度が気に入らないだとか。
どうでもいい理由をつけられて、毎日毎日暴力振るわれて……」
え……?
連れ子。血の繋がらない父親。暴力。
突然リョウの口から出て来た冷たい響きの言葉に、身体の温度が急に下がった気がした。