惑溺
『で?博美ちゃんは反対してた?』
「……反対ていうか。
『結婚なんて早すぎるんじゃない?』とは言ってたけど……」
昨日の博美との会話を思い出しながらそう言う。
『けど?』
「途中から博美の好きなバーテンダーの人の話になって、聡史の事はすっかり忘れてた」
私が素直にそう言うと、聡史は電話越しに豪快に笑った。
『忘れられたのか俺。ひどいな。
そんなに格好良かったんだ?そのバーテンは』
「うーん、格好いいっていうか……」
私は首を捻りながら昨日の彼を表現する言葉を探す。
「確かにすごくかっこよくて綺麗な顔してるんだけど、なんだか迫力があって冷たい感じの人。
目が合うだけで緊張して畏縮しちゃった」
人を拒絶し威圧するのに、それでも人を魅了する不思議な人。
それが私の感想だった。