惑溺
「あーあ。早く結婚したいなー。
そうしたらどんなに忙しくても毎日由佳に会えるのに」
疲れた顔でゆっくりと話す聡史を複雑な想いで見ていた。
決して聡史の事を嫌いになった訳じゃない。
優しくて暖かい人。
一緒にいると落ち着ける、人を安心させる柔らかな雰囲気。
彼がどれだけいい人で、誠実な人かわかってる。
それなのに、一緒にいるこの瞬間も目の前にいる聡史よりもリョウの事ばかり考えてしまう自分……。
「由佳、なんか雰囲気変わったな……」
聡史は私の瞳の奥を覗き込むようにみつめた。
「そう?」
「なんか、綺麗になった」
そう言って微笑む聡史を見るのと、麻痺したはずの罪悪感にちくりと胸が痛んだ。