惑溺
 
「入んないの?」

いつまでも靴を脱がずに玄関に立ち尽くす私を、リョウは怪訝そうに見る。

部屋に入ったらまた私は流されてしまう。
そんなのは、嫌……。

『そんな男に関わらないほうがいいよ』

さっきみたあの女の子の、疲れきった表情が脳裏に焼きついて離れない。

「……好きでもない女の子に貢がせてたの?」

絞り出した掠れた声。
玄関に響いた自分の声が余りに弱々しくて、なんだか情けなくなった。

「は?」

靴を脱いでリビングに入ろうとしていたリョウが私を振り返った。
その冷たい視線にぞくり、と背筋が凍る。

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