惑溺
「じゃあ、例えばこの電話に勝手に出て、先生に向かって由佳を愛してるって言えばそれが愛してるって事になんの?」
リョウの手の中で淡いライトの点滅を繰り返しながら、頼りなく小さく震え続ける携帯電話。
私は何も言えずに、冷たくなった両手を祈るようにきつく握りしめていた。
どうしていいのかわからない。
どうしてほしいのかもわからない。
ただ、泣きたいくらい寒くて寒くてたまらない。
不意にぷつりと、まるで息絶えたようにリョウの手の中の携帯電話が振動を止めた。
「冗談だよ」
怯える私を嘲笑うように、リョウがゆっくりと目を伏せた。
「そんな事、するわけない」
私の携帯をバッグの中に戻しながら、綺麗な唇を歪めて笑った。