惑溺
 
「リョウが何を考えているのか、わからない……」

カタカタと小さく震える私をリョウは冷めた目付きで見た。
コンクリートの冷たい廊下で泣いてすがりつく女の子を見下ろしていた、あの表情で私を見る。

「別に?」

黒い前髪の隙間から見えるその瞳。
感情を押し殺した冷たい視線。

その瞳に映る私は、都合のいい馬鹿な女のひとりでしかないんだ。
そう、最初から分かっていたはずなのに……。

「別に何も考えてないよ。
勝手に言い寄ってくる女にも飽きてたし、真面目で優しい先生の女を寝取るのも面白いかなと思っただけ。
なにも知らないで授業する先生を見てると哀れで、滑稽だった」

「……やめてよッ!」

どうして、そんな事を言うの?
どうして、人を傷つける事ばかり……
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