惑溺
涙を見られたくなくてうつむいて顔を覆う私の耳元で、リョウは笑いながら囁いた。
「そうやって泣いて、悪いのは全部俺にすればいい。
自分は何も悪くないフリをして白いウェディングドレスを着て、赤い絨毯の上で幸せそうに笑うんだろ?
なんなら結婚してからも、この部屋に来ていいよ。
不倫ってのも、悪くない」
言いながらリョウは私の髪を束ねていた茶色のシュシュを外し、ほどいた髪に顔を埋めた。
「やめて……!」
耐えきれなくなって叫んだ途端、ずっと手のひらの中に握っていたこの部屋の鍵が指からこぼれ落ちた。
堅い床に叩きつけられた銀色の鍵が
冷たい金属音を響かせた。