惑溺
足を止めて携帯を開くと、聞こえてきたハキハキとした明るい声。
『由佳ー?今大丈夫?
ちょっと聞いてよ聞いてよ!さっきさ、超修羅場見ちゃってさぁ!』
「博美……」
賑やかな博美の声は、私を日常へと引き戻した。
『さっき、リョウくんの店で飲んでたの!
そしたらリョウくんの元カノが乗り込んできて、泣くし叫ぶし、凄かったんだよ!
そのあと、リョウくんが元カノを連れ出してふたりで出てったんだけどさぁ……』
どこか遠くから聞こえるようなその博美の声を、ぼんやりと聞いていた。
『リョウくん、顔はいいけどダメだね。
タチ悪そうだし、女ぐせも悪そう。
だからさ、由佳も気を付けなよ?』