惑溺
11
「どっちがいい?」
窓際の席にぼんやりと座っていると、カップが二つ乗ったトレイを目の前のテーブルに置きながら博美が言った。
駅のすぐそばにあるコーヒーショップ。
ガラス張りの明るい店内が、泣きすぎてぼやけた目には眩しすぎて、なんだか現実味がなかった。
「抹茶ラテとカフェモカ。どっちもホットだけど」
「あ、ごめん……」
鼻をすすりながら慌ててバッグから財布を出そうとする私を、博美は手で制して、トレイの上から抹茶ラテのカップを取り上げ口をつけた。
「お金なんていいからさ、何があったのか話してよ」
トレイの上に残されたカフェモカの入ったカップ。
そこからゆっくりと立ち上っては消える湯気を見ながら、もう一度鼻をすすった。